石原の責任論(5)

石原の責任論(5): 住民訴訟リスク

:9月11日、東日本大震災の発生から1年半を迎えた。1万8700人余りの死者・行方不明者を出し、現在までに収容できた遺体は1万5802体に上るが、いまだに226体の身元が判明していない。それに約34万人が我が家を失い仮住まいを余儀なくされている避難生活者たちだ。一部の日本人には、大震災の生々しい記憶が薄れ始めているのかもしれない。すくなくとも、「天罰発言」したこの男、都知事石原はそうだろう。

:石原が尖閣購入を宣言した4月以降、都庁内で密かに検証されている住民訴訟があった。日本経済新聞によると、元京都市長、田辺朋之に約26億円の賠償を命じた通称「ポンポン山訴訟」。市が47億円で買い取ったゴルフ場予定地が不当に高額だと認定された事件だ。首長個人への賠償請求額としては過去最高額だった。

・石原は、日刊ゲンダイが指摘したサギまがいの寄附金集めで約14億円を手にした。一方、後発の国も尖閣諸島の購入・国有化に動き出し、地権者に20億円の金額を提示した。そのため、両者の指値争いになった。

・国の提示額20億円に対して、石原は14億円に6億円上乗せて20億円とし、さらに手数料を加えた20億3千万円で地権者と交渉を進めていたという(産経新聞)。ところが、国は石原の交渉額に、さらに2000万円を上乗せして20億5千万円で落札に成功した。

・だが変だ。石原の手持ち金は14億円だった筈だ。交渉に上乗せした6億3千万円はどうやって調達するつもりだったのか。答えは一つだ。議会の同意なしに勝手に都民の貯金箱を開け、6億3千万円を使う算段を企てていたことになる。

・本来、「都が一件当たり2億円以上で2万平方メートル以上の土地購入契約の場合、不動産鑑定、財産価格審議会の了承、そして都議会の議決といった手続きを踏まねばならないこと」そして「自治体の役割が「住民の福祉の増進」であるからして、尖閣取得の費用は都民に必要な支出という論点と結びつかないこと」も、石原は十分に承知していたはずだ。

・4月27日の都の定例会見でも、“尖閣について、最終的には議会の理解を得ないといけないことになるのでは”と質問されると、「しかるべきときに、購入のプロセスが進んで、たとえば仮契約ができるとか、そういう段階で議会に諮ろうと思っている。4定(12月の第4回定例会)くらいになるんじゃないか」とハッキリと答えている。

・だから、すべて承知の上で、地権者に20億3千万円をオファーしたということは、空手形をきったようなものだ。また空手形が議会議決で本物になったとしても、「購入額が不当に高く、都に損害を与えた」ことで、住民訴訟を起こされ敗訴の恐れがあった。

:2002年自治法が改定となり、「損害賠償請求や不当利得返還請求」に関する4号請求と呼ばれる住民訴訟制度が大幅に変更になった。

・以前は、住民が首長を直接訴訟できたが、改正後はできなくなった。

・住民が第1次訴訟(原告住民 vs 被告自治体)で勝訴すると、負けた自治体が住民に代わって、第2次訴訟(原告自治体 vs 被告首長)をおこす仕組みに変更された。そしてこの仕組みのなかで、違法な財務行為に責任を有する首長に対して、損害賠償請求等を請求することを、自治体に「義務」付ける訴えが規定された。

・ところが、第1次の住民訴訟で敗訴し、判決で「違法な公金支出があり、首長に賠償を求めなければならない」と認定された自治体が、判決の確定前に、首長に対して請求権を放棄する議案を議会に提案する自治体が出始めた。その結果、「住民の代表である議会の議決により、請求権は消滅した」として、支出の違法性に踏み込まないまま、住民敗訴が確定しているという。

・自治法は自治体が権利を放棄する場合には議会の同意が必要と定めているためだが、「請求権の放棄」は首長を救済するために、議会の多数派議員と首長との馴れ合い工作だ。さらにいえば、法の盲点をついた「禁じ手」だ。ただ、請求権放棄の有効性は、高裁レベルでも判断が分かれており、「裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められる」か否かを審議中という。

・おそらく、石原はこの禁じ手を狙ったと思われる。万一、20億3千万円での尖閣購入に成功した場合、寄附14億円を大幅に上回る落札額に対して住民訴訟を起こされたときの対処として、議会での多数派工作による請求権放棄の禁じ手を使うために、過去の最高裁判決事例を都庁内で密かに検証させていたに違いない。

:リスク回避の検討は民間企業であれば当然のことだ。しかし、自治体の首長石原が、議会の議決も得ておらず、勝手に自分で値踏みし、地権者にオファーした行為は極めて悪質だ。さらに、その悪質な行為から想定された住民訴訟をあらかじめ検討しておくなどした、いわば計画的な行為も悪質だ。

:12日、国は沖縄県石垣市尖閣諸島3島(魚釣島、南小島、北小島)を20億5千万円で購入する売買契約を地権者と交わし、3島を国有化した。そして同日、登記も完了した。これで権利書は国の金庫に納まった。まさに、落ち着くべきところに落ち着いた感がある。今後は海上保安庁が3島の維持・管理にあたるという。

・結局、石原のパンダ外交は何だったのだろうか。新左翼の言葉をかりていえば、この男を「総括」する必要がある。

・石原がパンダ外交を宣言する前の日本と、後の日本を比べてみたら明らかだ。宣言前は領土の問題など持ち上がっておらず、隣国との外交関係も落ち着いていた。それが宣言により険悪化されてしまった。これまで築いてきた関係を僅か、数ヶ月で崩された。こんなパンダ外交に日本の外交がかき乱されていると、アジア諸国ばかりでなく、米国にも飽きられ、お友達がいなくなってしまうだろう。

・そもそも沖縄県の尖閣諸島は、ハワイやグアムのような常夏の島々ではない。一番大きな魚釣島でも、切り立った海岸線に囲まれ面積は僅か3.82平方キロだ。東京都に属し、やはり一般民間人の上陸が禁止されている太平洋上の孤島で、かって旧島民がサトウキビ畑を開墾していた硫黄島や南鳥島のような広くて平坦な土地ではない。それに深海のプレート地殻変動が活発で、年々台湾側に引き寄せられている。だから国境上の島々というだけで、実質的な有効活用がはかれるような島々ではない。それを、沖縄県ならまだしも、遠く離れた東京都が、最初は「領土安全を守るため」、次には「非難魚場のため」と理由付けを一転させながら、購入に固辞してきたことは異常だ。

:石原は、国が地権者と大筋合意したことを聞かされたとき、「一方的に発表するのは無礼というか卑劣というかペテンだ。」と強く反発し、国をペテン師呼ばわりした。この言葉一つで、この男のすべてが分かるというものだ。

・これまで国有化に消極的だった国が、日本の尖閣領土保全にむけ動き出したことを歓迎し首相野田と握手してもよい場面だった。それをペテン師呼ばわりし、国は後出しジャンケンしたと、子供のようなことをいって大騒ぎだ。よほどこの男、成長段階での人格形成に問題があったに違いない。一般のサラリー生活者のように、他人の下で働いた経験がないため、人間関係の作法である常識が欠落しているようだ。

・石原の矛先は、本来、この男が差別用語で呼ぶシナ人達だったはずだ。そのため、彼らの国境侵犯を米国人にアピールするために、わざわざ米紙に広告をうったはずだ。ところが、石原は首相野田を相手に対立姿勢を強めてきた。

・国の安全保障の問題は、消費税云々の類ではない。例え人気が落ち目の首相であっても、党派を超えて一国の主に協力し、日本国民もまた一丸となって支持すべきものだ。ところが、石原にはそうした理屈が解せず、相手の見境がつかなくなっており、まさに米紙が元首相鳩山に名づけた、”哀れでますますイカレタ(increasingly loopy)男”だ。

・石原が尖閣購入に失敗したのは、地権者がパンダ外交の危うさに気づいたためだ。メディアは根抵当権が設定された地権者の登記簿を理由に、借金のために一円でも条件のよい国側に売却したと報じているが、70歳の昔気質の地権者が石原を信頼していれば、たとえ14億円でも売ってくれたはずだ。これまでの石原行政をみれば、誰でもこの男を信頼できなくなるのが普通だ。

・石原行政は、福祉行政などは後回しに、派手な大型プロジェクトに特化したゼネコンハコモノ重視の土建屋行政だ。その結果は燦燦たるものだ。過去三期12年間で積み上げた連結負債総額は約17兆円。都民一人当たり約135万円の全国最多の最悪だ。

・ 自らが発案した「臨海副都心開発事業」は、第三セクターの5社業すべてが数千億円規模の負債総額をのこして経営破産。国際貿易センター、東京臨海高速鉄道 東京都地下鉄建設なども追加支援の問題をかかえ、さらに石原が「中小企業金融」を二期目の公約に主導・設立した「新銀行東京」も、巨額の融資が焦げ付きとなり、経営が破綻寸前に追い込まれている。一期目の公約「在日米軍横田基地返還」も、まったく手付かずに放置されたままだ。

・ そしてこうした失敗の隠れ蓑にするため、カジノ構想や東京オリンピック構想、それに今回の尖閣諸島の購入と、色々と花火をぶち上げてはみるが、これまたどれも失敗、失敗の連続だ。これまで、まったくといえるほど何の成果もあげていない。それでもこの男は悪びれることもない。

・そもそも、この男を都知事として存在させておく価値はあるのだろうか。都知事としての資質に対して大いに疑問とするところだ。

・ 9月1&2の両日、石原は調査団(不動産鑑定士、海洋専門家ら25人)を編成し、洋上からの尖閣諸島の調査をおこなった。野生のヤギがいた、流水と洞窟があった、これだけの調査に2500万円の税を無駄にした。またそれ以前の7月には、広告費1700万円をかけて、尖閣諸島の購入計画に賛同を求めた意見広告を米ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載した。

・こうした費用は、石原が自分のポケットマネーで清算してはどうか。昔、東京都の首長は住民選挙ではなく官選で選ばれ、国の内務省から派遣されていた。だからまさしく、東京都知事は国の君主に仕える身分だ。その証拠に、いまなお、都知事の給与は国務大臣並だ。一期4年の総収入が一億数千万円としても、4期で四倍の約5億円だ。清算するのには十分だ。

・そういえばこの石原、東日本大震災の被災者支援に個人で100億円を寄附したソフトバンク社長孫正義にイチャモンをつけている。寄附は疑問と発言したうえで、商業目的の行為だと揶揄した。では石原自身は寄附したのだろうか。韓国人の俳優ヨン様でも7千500万円もの寄附を東日本の被災地に届けている。

・余談を言えば、孫は、米アップル社の創業者スティーブ・ジョブズのように自分で企業をたちあげ自分で稼いできた生活力のある男だ。一方の石原は、作家の仕事では大成できず、政界に転職して衆・参の国会議員を9期務めたが勤まらず、途中で投げ出して都庁に転職し、都知事を4期務めている。だから一般のサラリー勤労者のように自力で給与を稼いだことがなく、すべて税金にたかって生きてきた人生だ。

・いずれにせよ、石原は「国を危うくする愚か者の行為」をしでかした以上、世間に謝罪し、自らの責任をとって都知事を辞職してはどうだろうか。

:作家赤坂真理の「東京プリズン」が話題を呼んでいるという。米国と日本、敗戦と憲法、天皇の戦争責任という難題を、母親との葛藤などの自分史に重ね合わせて描いた長編小説という。

・その彼女は文豪三島由紀夫の短編「英霊の聲」のなかの一節、「などてすめろぎは人間となりたまいし」に心打たれたという。すなわち、天皇に殉じた英霊たちが、人間宣言を行った天皇をなぜと恨み嘆く言葉だ。

・1970年11月25日、三島は楯の会同志らと共に決起する。そして市ヶ谷自衛隊駐屯地に乗り込み、居合わせた隊員を前にクーデターを促した後、その場で割腹自殺する。

・その様子は、「俺は天皇を英霊たちの恨みから守るために逝く。諸君らはこの世で日本を守ってくれ」と、訴えかけるような最期だ。

・どうだろうか、今回の石原のパンダ外交が、尖閣から竹島に飛び火して、「天皇謝罪要求」の問題まで引き起こす事態に至り、三島はあの世で怒っているだろう。そこで、石原も、三島のように腹を掻っ捌いてお詫びしてはどうだろうか。小心ものの石原にはその度胸はないかもしれないが。では、次の一案はいかがだろうか。

:幕末から明治時代に活躍し近代日本語の祖としても知られる落語家三遊亭圓朝は、多数の落語を新作した。そのなかに、グリム童話集から「死神の名付け親」を翻案した。それが「死神」という演目だ。昨年11月に亡くなった石原の友人立川談志の演目でもあった。

”男は死神に捕まり大量のロウソクが揺らめく洞窟へと案内される。訊くとみんな人間の寿命だという。”

”「じゃあ俺は?」と訊く男に死神は、今にも消えそうなロウソクを指差す。”

”曰く「お前は金に目がくらみ、自分の寿命をご隠居に売り渡したんだ」”

”ロウソクが消えれば寿命も消える。パニックになった男はロウソクを継ぎ足そうとする。”

 ”が、死神はわざと失敗させる。「消える、消える、アッ!」と叫んで火は消えてしまう。“

:9月は石原の誕生日だ。80の傘寿祝いをこの洞窟で開いてあげてみたらどうか。この男のロウソクをみんなで囲んで、「ハッピー・バースディ」のソングを歌ってお祝いする。そして最後に本人がロウソクに息をふきかけ、「アッ!」といわせる。